旅行業界30年の歩みと、AI時代の旅行

目次

はじめに

私は30年以上、旅行業界に携わってきました。海外格安航空券とホテルを組み合わせた個人旅行の手配、グアム・ハワイ・韓国・タイ・バリ島・中国などへのツアー造成、現地手配、富裕層向けの手配旅行、国内・海外パッケージツアーの販売、JR切符や国内航空券の発券、訪日外国人の手配、添乗員の同行業務まで、仕事の幅は広いものでした。

その30年のあいだに、旅行の手配の仕方は根本から変わりました。紙と電話の時代から、インターネット、そしてAIの時代へ。現場で何が起きていたのかを、自分の歩みとともに残しておきます。

第1章 紙と電話の時代

1994年当時、航空券の空席照会や料金確認は、すべてオフコンと呼ばれる業務用コンピュータや、CRS(旅行会社専用の予約システム)で行っていました。CRSは一般の方が使えるものではなく、旅行会社専用の道具でした。

航空会社が直接販売する料金は高額なことが多く、実際には「航空会社 → ホールセラー(卸) → リテーラー(小売)」という流れで商品が流通していました。ホールセラーに電話で空席を照会し、空きがあれば料金を確認し、条件が合えばようやく予約成立。そういうアナログな時代でした。

当時は、個人で海外のホテルを予約する手段もほとんどなく、旅行会社に依頼することがごく当たり前でした。今のようにオンラインで誰もが情報にアクセスできる時代ではなかったため、旅行会社の知識とネットワークが不可欠だったのです。今思えば、旅行会社は「情報と手配をつなぐ専門家」として、大きな価値を提供していた時代だったと思います。

第2章 ネットの普及と価格競争

2000年前後、各旅行会社のホームページに「問い合わせ窓口」が載るようになり、小さな変化が訪れました。それまで電話や来店が主流だった予約に、メールやWebフォームからの問い合わせが増えていったのです。

その後、私は海外ツアーの企画担当になりました。かつて集客の中心だったのは「本のエービーロード」や新聞広告でしたが、次第にYahoo!トラベル、トラベルコちゃん、ネット版のエービーロードといったWeb媒体のほうが、予約につながる確率が高くなっていきました。目玉商品があれば新聞広告も有効でしたが、その割合は年々減り、2006年には「本のエービーロード」が休刊。広告の主戦場は、完全にインターネットへ移りました。

ネット掲載の利点は即時性です。現地手配会社や航空会社から割安な料金の提示があれば、すぐにツアー価格を訂正してWebに反映できる。柔軟でスピーディーな対応が可能になりました。

ただ、価格の裏側には事情もありました。航空会社とは「半期または通期で何名送客するか」という送客ターゲットを設定し、達成すると1人あたりの金額が返金される、いわゆるキックバックの契約を結ぶことがあったのです。この仕組みを前提に、ツアーや格安航空券の価格が調整されていました。特に大手旅行会社はこの仕組みで圧倒的に有利で、目標の送客数にあと少しという状況になると、信じられないような破格の価格を打ち出すこともありました。

比較サイトでは、ツアーは「料金の安い順」に並びます。常に他社の価格を見張り、少しでも安い料金が出れば追随する。値下げ交渉が通らなければ、自社の利益を削るしかない。結果として、信じられないほど薄利で販売するケースも少なくありませんでした。

転機は、宿の予約の主導権がネットに移ったことです。星野リゾートが脚光を浴びるようになり、富裕層の方々から「星のや東京」「星のや京都」などの手配を依頼されることが増えました。しかし、星野リゾートは公式サイトから予約するほうが、旅行会社経由より圧倒的にお得な料金になっていました。

一休.comも大きかった。高級ホテル・高級旅館に特化した予約サイトとしてスタートし、写真が多く見やすいサイトで、多くの富裕層の方々がアカウントを作りました。料金は旅行会社の手配よりお得なことが多いうえ、ポイント還元が非常にうまくできていて、ヤフーの傘下になってからはポイントバックがPayPayでも可能になりました。

そしてコロナ禍が、業界を直撃しました。旅行の仕事はまったくなくなり、多くの業界の友人が他業界へ転職しました。私もコロナ禍のあいだは別の仕事をして凌ぎ、明けてから旅行の仕事に復帰しましたが、世間のインターネット化は一段と加速したように感じました。

近場の1泊旅行などが主な仕事になるなか、お得意様からは「気分転換にホテルに泊まりに行ってきた」「温泉に1泊だけ行ってきた」という話をよく聞くようになりました。交通機関と宿泊だけなら、行程の相談は要らない。「わざわざ手を煩わせることもないだろう」という、お得意様なりの配慮だったのかもしれません。

やがて、いつも問い合わせをいただいていたお得意様から連絡がない、ということも出始めました。空室状況まで調べて提案しても、一休.comをはじめとする予約サイトと比べると、明らかに料金面で負けているケースが多発するようになっていたのです。

第3章 富裕層のお客様と、価値で選ぶ旅

価格競争の現場から離れ、私は富裕層のお客様の個別手配を担当するようになりました。ここで問われるのは価格ではなく、「希望にどれだけ応えられるか」です。

価格競争からは解放されましたが、プレッシャーはまったく別の次元になりました。通常の手配であれば、ミスがあってもピーク時期を避けていることが多く、再予約できる余地がありました。しかし富裕層の旅行はハイシーズンが多く、一つの手違いが大きなトラブルにつながります。

慣れてくると、どこが危険ポイントかが見えるようになります。レストランの希望を聞き漏らさない、日付の確認を三重に行う。こうした地道な積み重ねが、「絶対にミスをしない」ための基礎でした。

希望どおりの手配ができない場合でも、別の視点からの提案ができるようになると、「この人に任せてよかった」と言っていただけることが増えました。そうして、紹介から新たなお得意様につながる機会も増えていきました。安さでは測れない価値が、確かにそこにあったのです。

第4章 AI時代へ

お客様から旅行の問い合わせをいただくと、希望をうかがい、観光ルートを考え、必要な手配をして提案する。それが長年のルーティンでした。

ところが今は、AIに相談すれば観光ルートの提案が返ってきます。まだ完璧ではありませんが、今後どんどん良くなっていくでしょう。

旅行会社を取り巻く環境も変わりました。一休.comや星野リゾートも、インターネットの向こう側では人の手を介する業務がありますが、実際の旅行会社で働いている人数とはまったく違う規模なのでしょう。だから同じ宿泊でも安く提供できる。旅行会社の大きな収入の柱だった、宿泊施設からの代理店手数料も料率が下がり、手数料を払わないという施設も現れ始めました。

これからの旅の組み立ては、AIに相談して大まかなルートを決め、Googleマップや観光地の定休日を確認し、一休.comなどで予約する、という流れが基本になるのだと思います。

そのなかで、現場の経験にまだ出番があるとすれば、「その提案が本当にいい旅になるのか」を見極める目でしょう。泊まりたい宿には一番いい季節があり、料金と内容が見合っているかどうかは、数字だけでは分かりません。

AIを敵ではなく味方として使えば、30年の経験はまだ活かせる。その思いで、このサイトを始めました。

私の歩みとこのサイトの考え方は、プロフィールページにまとめています。

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この記事を書いた人

旅行業界で30年以上、国内外の手配・ツアー造成・添乗など、幅広くお客様の旅をお手伝いしてきました。
旅行の終わりに「楽しかったよ、ありがとう」と言っていただけることが何よりの喜びであり、また次の旅をご依頼いただけた時に「あの提案でよかったんだな」と感じながら、ずっと仕事を続けてきました。

ただ近年は、インターネットで誰でも簡単に情報が手に入る時代。
お客様ご自身が価格やホテルのグレードなどを比較されることも増え、私たちがご提案する内容よりも、お得に見える選択肢があるのも事実です。
信頼関係のあるお得意様からのご依頼には恵まれていますが、正直なところ、コスト面ではなかなか太刀打ちできません。

そして最近では、AIの進化にも驚かされました。
「もしかすると、これからの時代は“敵”ではなく“味方”としてAIを活用できるかもしれない」
そんな思いで、自分でもAIの可能性を学びながら、このサイトを立ち上げてみました。

旅を考えている方に、少しでも役立つ情報やヒントをお届けできれば嬉しいです。
そして、これまでの経験を活かしつつ、新しい形で「旅の楽しさ」を一緒に考えていけたらと思っています。

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